大判例

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広島高等裁判所 平成元年(う)265号 判決

原判決には,薬事法2条1項2号の解釈を誤った結果,「ネオキシンE明治」が,同条1項にいう「医薬品」に該当するとした法令適用の誤りがあり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。すなわち,薬事法2条1項2号にいう「医薬品」とは,その物の成分,形状,名称,その物に表示された使用目的・効能効果・用法用量・販売方法,その際の演述・宣伝などを総合して,その物が通常人の理解において『人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている』と認められるものをいい,これが客観的に薬理作用を有するものであるか否かを問わないとするのがおおむね確立した判例であるが,薬事法が医薬品の無許可販売を禁止・処罰している主な理由は,医薬品がその有する薬理作用のために,副作用や中毒等の積極的な弊害が生ずることを防止することのほかに,客観的な薬効の保障のない物質を野放しにすると,国民をして適時適切な医療を受ける機会を失わせるおそれがあり,国民の健康に対して消極的な弊害を生ずるので,これを防止する点にあると解される。そうであるならば,人の健康上有益かつ無害な物質については,その薬効を標ぼうして販売したからといって,ただちに「医薬品」に当たると考えるべきではない。その名称,形状,用法,販売方法等とあいまち,標ぼうされた薬効に対する国民の不当な過信を生ずるおそれのないものは,その無許可の製造・販売を刑罰をもって禁止するだけの実質的根拠はないから,右のようなものは「医薬品」に当たらないものと考えるべきである。

特に,いわゆる健康食品として販売されている物については,本来,食品の成分と効能を演述・宣伝することが憲法上も保障されるべきである以上,標ぼうされた効能効果に対する国民の知る権利と,標ぼうされた薬効に対する国民の不当な過信を招く危険性とを比較衡量し,慎重に「医薬品」か否かを判断すべきである。

本件「ネオキシンE明治」は,その成分本質が客観的に「多量のビタミンEを含む天然濃縮植物油」という自然食品であって,人の健康に有益無害であり,かつ一般国民の認識においても,人の健康に対する不当な過信を生ずる危険性がなく,かえって,その演述・宣伝の内容は消費者側にとって有益な多くの情報が含まれているのであるから,これは通常人の理解においても「人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物」とは認められず,単なる「健康食品」であって,薬事法2条1項2号にいう「医薬品」には当たらない。

…控訴趣意以下省略…

本件「ネオキシンE明治」が,果たして薬事法2条1項所定の「医薬品」に該当するかとの点について考えるに,薬事法は,医薬品・医薬部外品等が国民の保健衛生の維持・増進に深くかかわるところから,これらの製造・販売・品質管理・表示・公告等について適切な規制を加えて,国民の生命,身体に対する危害の発生を未然に防止し,国民の健康な生活の確保に資することを目的とするもので,その2条において医薬品の定義を規定しているが,同条1項2号にいう医薬品である「人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物」かどうかは,医学的知識に乏しい一般人にはその物の内容を識別して薬理作用の有無を判断することは不可能で,専らその外観・形状・説明等により判断するほかない。そうしたとき,もし右のような使用目的の物が何らの規制もなくほしいままに製造・販売等されると,一般人がこれを不当かつ安易に使用することによつて,国民の多数の者に正しい医療を受ける機会を失わせ,その疾病を悪化させる等してその生命,身体に危害を生じさせるおそれがある。これらの危害を防止することを立法趣旨とする薬事法の下では,何らかの薬理作用を有するものはもちろん,薬理作用上の効果のない物でも,薬効があると標ぼうすることによる場合も含めて,客観的にそれが人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的としていると認められる限り,薬事法2条1項2号にいう医薬品に該当し,同法の規制の対象となると解するのが相当であり,右医薬品に該当するか否かの判断基準としては,その物の成分・本質・形状(剤型・容器・包装・意匠等)・名称・その物に表示された使用目的・効能効果・用法容量・販売方法・販売の際の演述等を総合的に判断して決すべきもので,かかる客観的総合判断の結果による一般通常人の認識いかんでは,たとえ科学的には人の健康に有益,無害な物であったとしても,なお,前記「医薬品」に該当するというべきである。かかる見地から,本件商品の医薬品性を判断するとき,原判決が同様の立場で子細に検討しているところは,いずれも証拠によって認定できる事実であり(ちなみに,原審証人Fの第11回公判調書中の供述部分によると,本件商品について副作用の発現は否定できないことが認められるところから,右商品も決して有益無害なものとは容易に断定できない),これらの事実を総合的に考察した場合,通常人が客観的に「人の疾病の予防に使用されることを目的とする物」といえるので,これを薬事法2条1項2号所定の医薬品に該当するとした原判決の判断には,何ら法令解釈の誤りはないというべく,この点に関する論旨は理由がない。

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